~人的資本経営の本質を語る~伊藤邦雄教授×坂下英樹社長 対談~人的資本経営の本質を語る~伊藤邦雄教授×坂下英樹社長 対談

スピーカー紹介

一橋大学 CFO教育センター
センター長

伊藤 邦雄(いとう くにお)

一橋大学教授、同大学院商学研究科長・商学部長、一橋大学副学長を歴任。商学博士。2014年に座長として「伊藤レポート」を公表し、コーポレートガバナンス、無形資産やESGに関する各種の政府委員会やプロジェクトの座長を務める。2020年9月に経産省の研究会の成果として「人材版伊藤レポート」を公表した。

株式会社リンクアンドモチベーション
代表取締役社長

坂下 英樹(さかした ひでき)

(株)リンクアンドモチベーション代表取締役社長。1991年に(株)リクルート入社。人材総合サービス事業部にて、組織人事コンサルティングに携わる。2000年、創業メンバーとして(株)リンクアンドモチベーションの設立に参画し、2013年より当社代表取締役社長に就任。

01「人」の力で日本のプライオリティを高める

  • 伊藤経営者と話をしていると、みんな口をそろえて「人は大事だ」と言います。しかし、「今、勤めている会社に長く勤めたいですか」という問いに対して、各国の調査結果を比較すると、日本はその割合が一番低い。もう一方で、「他社に転職したいですか」と聞くと、これも一番低い。日本企業の競争力を復活させようとしても、従業員の熱意やエンゲージメントが低いと実現できないのではないか。そうしたことから「人材版伊藤レポート」を2020年に公表しました。
  • 坂下当社グループが創業した2000年当時は、ITへの期待が高まり、効率が非常に重要視された時代でした。ただ、ITを活用するのは人であり、何を目的に活用するかによって結果も変わってくる。だからこそ、もう一度、人のモチベーションやエンゲージメントに着目した経営の効果を証明し、サポートしたいという想いからスタートしました。

    例えば、なぜこの会社は存在するのか、あるいはなぜこの事業や仕事をやっているのかを議論することなく、数値のコミュニケーションばかり交わしている企業は多くあります。そうすると、従業員にやらされ感が充満していきます。給与を上げたいなどという外発的なモチベーションだけでなく、この内発的なモチベーションを向上させることこそが日本の成長エンジンになるのではないかと考えています。

02人的資本開示を通して、
経営を磨いていく

  • 伊藤昨今、多くの日本企業を見ていて、人的資本開示を力入れてやるぞ!と意気込んでいるものの、ともすると開示にばかり目がいってしまっているように感じます。例えば、女性管理職比率にしても、何か数字合わせ的なところで終始してしまうのは、本来の目的とは意味が異なってくるのではないでしょうか。

    開示で終わりではなくて、開示した情報にフィードバックを受けて人的資本経営を通して企業状態を磨き、それをまた開示する。ループが上に向かって回るような循環を実現できるとよいですね。
  • 坂下当社グループでは、創業以来取り組んできた「診断」「変革」「公表」の組織人事コンサルティング支援を拡大することで、人的資本経営を推進していきたいと考えています。

    私は、人的資本開示というのは、スポーツを例にとれば、試合の結果だけではなく、その練習の中身を見せるようなものと捉えています。
  • 伊藤それはおもしろい例えですね。確かに、どんな練習にどれだけ真剣に取り組んでいるか、通常はわからないですね。でも情報を開示する中で、わが社はこんな練習メニューを持っていて、従業員も練習したいという意欲が高くて、だから業績向上していきますよ、と示していく。例えば製造業だと、工場見学ってありますよね。実際に見て感動して投資をする。人的資本経営についてもまさにそうですね。人材採用のシーンで何を語っているのだろうと。その場を見ていないのはもったいないですね。

03人的「資源」ではなく
人的「資本」

  • 伊藤これまで日本企業は人を「資源」として管理してきました。これからは、人に対する見方を抜本的に変えていく必要があります。つまり、使えば減る「資源」ではなくて、適切な環境に置かれれば限りなく価値を伸ばす「資本」として捉える。人的資本の価値は、一律ではなくて、企業ごとに経営者が従業員と一緒になって議論することが必要です。御社ではすでに実践していると思いますが、いかがですか。
  • 坂下当社グループでは、「人は最強・最大の経営資本である」と創業以来考えています。事業ありきで人を当てはめるだけでなく、人ありきで事業を当てはめる、そんな経営哲学が存在します。そして、人的資本という捉え方をした時に大切なのが、企業風土や企業文化だと思っています。

    そのため当社グループでは、マネジメント側がメンバーに対して成長実感を持ってもらうことを大切にしています。例えば、目標設定の際に、業績目標を主眼とするパフォーマンスだけでなく、「ストレッチ」という成長目標を設定します。時に、すぐには成果に結びつかないこともありますが、このストレッチを活用しながら、成長実感を得るコミュニケーションを重ねる。こうして、従業員のいろんな挑戦を奨励して、人的資本の価値を高めていますね。
  • 伊藤まさに言行一致、素晴らしいですね。練習風景も含めて、ぜひ覗かせてください。
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