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「コロナ時代における若手社員の活躍支援」に関する
研究結果を公開

2021.12.3

株式会社リンクアンドモチベーション(本社:東京都中央区、代表:小笹芳央、証券コード:2170、以下当社)の研究機関モチベーションエンジニアリング研究所(以下当研究所)は、「コロナ時代における若手社員の活躍支援」に関する調査を行いましたので、結果を報告いたします。

調査背景

コロナ禍をきっかけに、数多くの企業が従来型の採用・配属・育成方法の変革を迫られている。面接や研修をリアルではなくオンライン実施に変更した企業も数多く存在する。その影響を特に受けたであろう若手社員にはどのような変化があったのだろうか。また、若手社員が活躍するための重要な要素は何なのだろうか。

 

本調査では当社の持つ豊富なデータに基づき、慶應義塾大学大学院(以下、慶大院)システムデザイン・マネジメント研究科(※1)との共同研究結果をレポートする。

共同研究の結果を基に、コロナ時代における若手社員の活躍支援の方法を考察してみたい。

 

※1:ものごとを俯瞰的かつ体系的に捉えるシステム思考と、ものごとを人間中心で考えて多様性を活かして新価値を創造するデザイン

思考を融合したシステム×デザイン思考の研究・教育を実施する研究科

 

調査概要

本調査では、以下3種の調査を実施した。

 

調査項目① 適性検査「BRIDGE」データを活用した分析

 

リンクアンドモチベーショングループ(以下、LMG)の適性検査「BRIDGE」データと採用、配属、評価、表彰実績データを用いて以下の分析を実施した。

 a) 適性検査「BRIDGE」データを活用した、採用や配属先における活躍人材要件を分析。

 b) 表彰データを活用した、活躍要因の特定分析。

 c) マネジャーや若手などの年次・階層別の適性を分析。

 

<適性検査「BRIDGE」の概要>

「BRIDGE」とは受検者が自分自身に関する質問に答えることで、自身の強みと弱みを定量的に把握するための適性検査である。

図1のような帳票が出力され、大きく「ポータブルスキル」と「モチベーションタイプ」の2つで構成されている。

図1 適性検査「BRIDGE」の帳票

 

「ポータブルスキル」は「対課題力」「対自分力」「対人力」の3つで構成されており、それぞれの力は図2のように8つのスキルに分解される。

図2 ポータブルスキル一覧

また、モチベーションタイプは「組織タイプ」「行動タイプ」「仕事タイプ」の3つで構成されており、受検者のモチベーションタイプが可視化される。

「BRIDGE」は2016年から2020年の直近5年間でのべ1,760社、257,200人に受験いただいている。

 

<分析対象>

「BRIDGE」データ・・・2020年5月に在籍していたLMG社員のデータ1,437人分。

その他のデータ      ・・・2020年5月時点で在籍していたLMG社員1,437人の「在籍」「年次」「等級」

            「評価」「表彰成績」データ。

※個人が特定できない方法にて分析

 

 

調査項目② 新卒社員が組織に適応するまでのプロセス分析

 

LMG社員に組織デザインの専門知見を踏まえたヒアリングを実施し下記の調査を行った。

 a)インタビューの定性分析を通じて、新卒社員の成長における課題や改善策を識別。

 b)組織デザインやカスタマージャーニーの手法を活用して、新卒社員の入社前~オンボーディングプロセスを

        可視化。

 

<インタビュー対象>

新卒社員  ・・・LMGに新卒で入社した1年目社員2名、2年目社員1名

採用育成部門・・・採用、育成を担当している部長2名、管理職1名、社員2名

事業部長  ・・・採用コンサルティング、育成コンサルティング事業部長4名

取締役   ・・・採用コンサルティングと育成コンサルティングを主管する取締役1名

 

<組織デザインとは>

社員一人ひとりの能力を生かしながら、組織としての成果を最大限発揮できる環境を整えること。

構造、業務、採用、配置、報酬などの要素を基に最適な組織を描く。

 

 

調査項目③  LMGの新卒1~5年目を対象としたアンケート調査

 

若手社員が主体的に仕事に取組み、高い成果を創出する要因を明らかにするため、LMGの新卒1〜5年目を対象にアンケート調査を実施し、下記の分析を行った。

 a)どのような要因が主体的行動やコミットメント、組織社会化に繋がるかを分析。

 b)新卒1~5年目の年次別での違いを分析。

 

<アンケート対象>

LMG新卒1年目から5年目の社員375名

 

<アンケート項目>

組織デザインに基づいたアンケート項目計112問

 

調査結果

LMGでは、若手の活躍人材とマネジメント人材の適性に違いがあることがわかった。

 マネジメント適性とのギャップが組織・個人のパフォーマンスをスポイルしている可能性があるため、階層別

 に求められる適性の違いを明確にし、若手への期待付与と併せ中長期的な能力開発が必要となる。

 

調査① 適性検査「BRIDGE」データを活用した分析

カテゴリー別に評価される人の適性を表1に示す。

表1 【カテゴリー別】評価される人の適性

 

まず、全体の傾向としては、 評価される人の適性は、「推進力」「確動力」「規律力」「決断力」「主張力」「統率力」であることがわかった。次に、若手社員(新卒1~5年目)で評価される人の適性は、「規律力」「確動力」であった。また、マネジャーとして評価される人の適性は、「決断力」「主張力」「否定力」「統率力」「冒険力」「推進力」であった。

 

上記のように、若手の活躍人材とマネジメント人材の適性がそれぞれ異なっていることがわかる。このことから、マネジメント適性とのギャップが組織・個人のパフォーマンスをスポイルしている可能性が示唆される。マネジメント適性を若手の頃から評価する仕組みや、階層別に求められる適性の違いを明確にし、若手の活躍人材に対する期待付与と併せて、中長期的な能力開発施策が必要になると考えられる。

 

新入社員が組織適応に至るためには、上司や周囲との信頼関係構築が重要であり、互いが本音で対話できる

 機会を意図的に設計しておくことが必要である

 

調査② 新卒社員が組織に適応するまでのプロセス分析

 

新卒社員、採用育成部門、事業部長、取締役にヒアリングした結果を踏まえ、多くの新卒社員の組織適応に至るまでのプロセスを抽出し、可視化したものを図3に示す。

 

図3 入社前から組織適応に至るまでのケース

 

図3のケースを見てみると、コロナ禍によるオンライン世代特有のモチベーションの低下があることがわかる。上司や職場メンバーとの関係性が構築される前に厳しい指摘を受けると大きくモチベーションが低下する傾向が見られた。その後、360度サーベイ実施後の職場共有の際に、本人と上司双方が胸襟を開いて本音で話すことができたことで、信頼関係の構築に繋がり、組織適応に至っている。

 

まとめると、新卒社員が組織適応に至るためには上司や周囲との信頼関係構築が重要であり、互いが本音で対話できる機会を意図的に用意しておくことが必要であると言えるだろう。

 

若手社員の主体的行動を引き出すためには、まず本人に明確なキャリアビジョンがあり、心理的資本

  (自己効力感・希望・レジリエンス・楽観性)が蓄積されていることが重要となる。その上で、上司・職場

 メンバーとの信頼関係を構築し、サポートを受けることができれば、主体的行動につながるコミットメントが

 引き出される。

 

調査③ LMGの新卒1~5年目を対象としたアンケート

 

どのようにすれば若手社員からコミットメントや主体的行動を引き出せるかを調査するため、LMGの新卒1年目から5年目に対し、アカデミックの尺度に基づくアンケートを実施した。

375名からの回答を基に、相関分析を行い、組織社会化・情緒的コミットメント・主体的仕事行動との結果を図4に示す。

図4 組織社会化・情緒的コミットメント・主体的仕事行動との相関分析

 

図4に示す通り、若手社員の主体的な行動を引き出すためには、下記6つの要素が重要になる。

1) 垂直的・水平的交換関係

いわば「上司や同僚との関係性」である。調査②のインタビューでも示唆されたが、特に上司との信頼

関係の有無が、組織社会化・情緒的コミットメント・主体的な仕事行動の全てと相関が高いことが明らかになった。

 

2) 心理的安全性

いわば「組織内で恐れや不安なく発言できるか否か」である。孤独にさせず、周囲から適切なサポートを受ける環境づくりが必要である。

 

3) 心理的資本

いわば心理的な充実度合いである。特にこの心理的資本が主体的行動との相関係数が一番高く

それだけ新卒社員には重要な要素だと言える。

 

4) キャリア自律心理尺度

「自身のキャリアについて明確なビジョンがあるか否か」である。自身のキャリアの道筋が見えていない状況では、仕事に対して主体的な行動は生まれない。

 

5) 組織社会化

いわば「会社・仕事・上司・職場に馴染む」ことである。調査②のインタビューでも示唆されたが、新卒

社員には非常に重要な要因となることが、アンケートによる定量分析からも判明した。

 

6) 情緒的コミットメント

「若手社員の会社への愛着」と言える。この結果から、会社への愛着の高さは主体的行動に影響すると言える。また情緒的コミットメントは全ての職場関係要因と相関関係にある。

 

図4の***という表記は、アンケート結果の分析により有意性が判明した項目に記している。

この結果から、若手社員の主体的行動を引き出すためには、適切な環境作りが必要であることがわかる。職場メンバーとの信頼関係を構築し、周囲からのサポートを受けることができる環境作りが必要だ。そして、本人自身のキャリアビジョンを明確にするとともに、心理的資本を高める経験が必要になる。特に新卒社員にとっては、仕事をしていく中で自信を高めていくことが大切だ。自信を高めるためには、本人の成功体験や承認が重要となる。そのためには挑戦できる環境づくり、失敗しても再度立ち上がって挑戦し続けられる環境づくりが不可欠である。

 

適切な環境という土台の上で、社員ひとりひとりが自らビジョンを明確にし、挑戦し続ける舞台を設計することで主体的な行動を引き出し、会社全体の成長に繋げていくことができるだろう。

 

結論

コロナ時代において若手社員の活躍を支援するためには、採用段階での合意形成から始まり、内定者時代の育成、入社後の継続的な支援と、包括的なタッチポイント構築が重要だ。

また、昔ながらの感覚的な配属・育成から脱却し、データに基づいた採用時の対象選別、そして適切な

配属・育成が重要なテーマとなる。

 

コロナ禍をきっかけに、数多くの企業が従来型の採用・配属・育成方法の変革を迫られている。

本調査は、当社が持つ豊富なデータと当社コンサルタントの知るリアルな経験を基に、慶應義塾大学大学院

システムデザイン・マネジメント研究科と共同研究を行った結果である。

 

まず、調査① 適性検査「BRIDGE」データを活用した分析から、LMGでは、若手時代の活躍人材とマネジメント人材の適性に違いがあることがわかった。他企業でも同様の結果になるとは断言できないものの、マネジメント適性とのギャップが組織・個人のパフォーマンスをスポイルしている可能性があるため、階層別に求められる適性の違いを明確にし、若手への期待付与と併せ中長期的な能力開発が必要だと言えるだろう。

 

次に、調査② 新卒社員が組織に適応するまでのプロセス分析から、新卒社員が組織適応に至るためには、上司や周囲との信頼関係構築が重要であり、互いが本音で対話できる機会を意図的に設計しておくことの必要性が示唆された。特にコロナ禍の影響でリアル&リモートのハイブリッドでの業務遂行を前提とした昨今においては、新卒社員が孤独を感じ、周囲から孤立してしまう傾向があり、注意が必要であろう。

 

最後に、調査③ LMGの新卒1~5年目を対象としたアンケート調査から、若手社員の主体的行動を引き出すためには、まず本人に明確なキャリアビジョンがあり、心理的資本(自己効力感・希望・レジリエンス・楽観性)が蓄積されていることが重要との示唆が得られた。加えて、上司・職場メンバーとの信頼関係を構築し、サポートを受けることができれば、主体的行動につながるコミットメントが引き出される。社員ひとりひとりが自らキャリアビジョンを明確にし、企業側が挑戦し続ける舞台を用意することができれば企業全体の持続的な成長に繋げていくことができるだろう。

 

LMGを対象とした本調査から得られた知見は、他企業においても採用時の対象選別や、評価・育成の仕組み作りに応用できるものと考えられる。採用段階での対象選別・合意形成から始まり、内定者時代の育成、入社後の継続的な支援など、従業員エンゲージメントを中核とした包括的なタッチポイント構築が重要であると言えるだろう。コロナ時代を経験して変革を迫られている今だからこそ、昔ながらの感覚的な世界から脱却し、データに基づいた採用・配属・育成を進めていくことが、新たな人事の勝ち筋、そして企業経営において持続的成長を実現するための重要なファクターとなることは間違いない。

 

発行責任者のコメント

昨今、企業を取り巻く事業環境が大きな変化を迎えている中で、持続的に企業価値を高めていくためには、イノベーションや付加価値を生み出す人材の採用、育成など、経営戦略と適合した人材戦略が重要となっています。人材の価値を最大限に引き出す「人的資本経営」を推進することは、経済産業省より2020年9月に公表された「人材版伊藤レポート」で述べられているように、日本の企業経営者にとって至上命題と言えるでしょう。

その中でも、人材流動化が進む中において、今回調査した「若手社員の早期戦力化」は最も重要なテーマの一つです。

 

調査結果の中で最も注目したいことは、採用と育成を分断してはならないということです。採用と育成をバラバラに進めるのではなく、経営戦略と適合した人材戦略を一気通貫で描いた上で、採用ターゲティングを見直し、内定期間中も含めた育成プログラムを策定することが必要でしょう。また、調査結果からは採用、育成だけでなく、受入先の上司や職場などの若手社員を取り巻く環境を整えることも併せて必要であることがわかりました。

 

それらを実現するためにはデータに基づいた人材戦略が必要不可欠です。定期的にサーベイなどで人材データを蓄積し様々な経営データと掛け合わせることで、実現性、貢献性の高い人材戦略を描くことができるはずです。

 

持続的な企業の成長に向け、今こそデータに基づいた「人的資本経営」に着手すべきなのではないでしょうか。

 

大島 崇(おおしま たかし)

株式会社リンクアンドモチベーション
モチベーションエンジニアリング研究所 所長

略歴
2000年 京都大学大学院エネルギー科学研究科卒業
2005年 住商情報システム株式会社を経て株式会社リンクアンドモチベーションに入社
2010年 モチベーションマネジメントカンパニー 執行役部長に就任
大手企業向けの組織変革や人材開発で多くのクライアントを担当
同時に商品統括ユニット、モチベーションエンジニアリング研究所を兼任し、新商品を開発
2015年 モチベーションエンジニアリング研究所 所長に就任

リンクアンドモチベーショングループの概要

・代表取締役会長:小笹 芳央

・資本金:13億8,061万円

・証券コード:2170(東証一部)

・本社:東京都中央区銀座4-12-15 歌舞伎座タワー15階

・創業:2000年4月

・事業内容

組織開発ディビジョン(コンサル・クラウド事業、イベント・メディア事業)

個人開発ディビジョン(キャリアスクール事業、学習塾事業)

マッチングディビジョン(海外人材紹介・派遣事業、国内人材紹介事業)

ベンチャー・インキュベーション

 

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