最新の研究結果

「働き方の多様化、就職活動のオンライン化による
新入社員意識の変化」に関する研究結果を公開

2021.6.30

株式会社リンクアンドモチベーション(本社:東京都中央区、代表:小笹芳央、証券コード:2170、以下当社)の研究機関モチベーションエンジニアリング研究所(以下当研究所)は、「働き方の多様化、就職活動のオンライン化による新入社員意識の変化」に関する調査を行いましたので、結果を報告いたします。

調査背景

新型コロナウイルスの流行は、経済活動の制限など商品市場への影響に留まらず、労働市場においてもリモートワークをはじめとした働き方に影響が及んでいる。

同様に採用市場においても、これまでの対面重視の採用方法とは一変し、非対面のオンライン面接、オンラインインターンシップが主流となってきている。

本調査では、2021年度の新入社員を対象に新入社員エンゲージメントサーベイを実施し、働き方の多様化、就職活動のオンライン化の中で新入社員が企業に対してどのようなことを期待し、満足しているのかの分析を行い、入社時における企業と新入社員のエンゲージメント向上におけるポイントを考察した。

 

調査概要

【新入社員エンゲージメントサーベイの概要】

当社独自の「組織への帰属要因となる4因子(目標・活動・人材・条件)」を16領域・全64項目に分類し(※1) 、それぞれの項目について期待度・満足度の2つの観点で質問を行い、回答者はそれぞれの期待度、満足度を5段階で回答する。

また、 組織への帰属要因となる4因子の総合満足度を質問し、同様に5段階で回答する。

新入社員エンゲージメントサーベイは上記の計132問の設問で構成され、回答結果は「期待度」「満足度」の各項目のスコアおよび、期待度×満足度の2軸で整理された「4eyes® Window」 (※2)を使用して整理される。

 

(※1)新入社員エンゲージメントサーベイにおける16領域

(※2)4eyes®Window概念図

【分析対象】

当社が提供する新入社員研修に参加した2021年度の新入社員の任意回答者644

【調査期間】

2021年3月~5月

調査結果

■新入社員の会社への期待と満足は概ね一致している一方で、共感できる人材の存在や条件面には不安が残り、就職活動がオンライン中心に変化したことによる、社員との接点の希薄化が起きていると考えられる。

 

【1】新入社員の4eyes®Window

新入社員エンゲージメントサーベイの結果から、4eyes®Windowを算出し図1に示した。

図1より、各領域が右肩上がりにプロットされていることから、新入社員の会社への期待と満足は概ね一致していることがわかった。

また、新入社員の期待度と満足度がともに高い領域は、「貢献実感」「成長実感」 「開放的風土」など、開放的な風土の中で、貢献、成長実感を感じながら仕事をすることについてであった。

一方で期待度は高いが満足度は低い領域は 「人材・共感性」 「経済報酬」「制度環境」「施設環境」など、共感できる人材の存在や条件面についてであった。

 

この結果より、オンライン中心の就職活動に変化したことによる、社員との接点の希薄化が起きていると考えられる。

期待度は低いが満足度は高い領域は、「企業認知」 「財務基盤」「企業理念」「経営戦略」「社会的意義」「人材・有能性」など、企業の安定性や理念、戦略、人材の有能性についてであった。

 

総じて、新入社員の会社への期待と満足は概ね一致している一方で、共感できる人材の存在や条件面には不安が残り、就職活動がオンライン中心に変化したことによる、社員との接点の希薄化が起きていると考えられる。

図1 新入社員エンゲージメントサーベイの結果を整理した4eyes®Window

 

■新入社員は、適切な労働条件や待遇に加えて、やりがいが感じられ自己成長できる仕事を求めている。一方で、環境面に対しての満足度は高くなく、コロナ禍におけるリモートワークへの対応が企業選びにおいて重要となっている可能性がある。

 

【2】新入社員が入社時に企業に期待していること、満足していること

2021年度の新入社員が企業を選ぶ際に、期待度・満足度が高かった上位10項目と、乖離度(期待度-満足度)が大きかった上位10項目を表1に示す。

また、満足度や乖離度が大きい10項目のうち、期待度上位10項目に入っていた項目は赤字とした。

 

表1より、新入社員が入社時に重要視するポイントは、適切な労働条件や待遇に加えて、やりがいが感じられ自己成長できる仕事ができるかどうかであった。

また、快適な職場環境や多様な雇用形態といった項目の期待度が高いことから、コロナ禍におけるリモートワークへの対応が企業選びにおいて重要となっている可能性がある。

一方で入社時に比較的満足していることは、企業の認知度や安定性、仕事におけるやりがいや能力の獲得、自己成長であった。

入社時に最も期待度と満足度の乖離が大きい項目は、給与や手当、労働時間、職場環境や、雇用形態といった制度待遇面であった。

 

総じて、新入社員は、適切な労働条件や待遇に加えて、やりがいが感じられ自己成長できる仕事を求めている。一方で、環境面に対しての満足度は高くなく、コロナ禍におけるリモートワークへの対応が企業選びにおいて重要となっている可能性がある。

表1 期待度・満足度が高かった上位10項目と、乖離度(期待度-満足度)が大きかった上位10項目

 

■新入社員の満足度が相対的に低い条件面の満足度を向上させるためには、経済的な報酬の充実やリモートワークにおける仕事環境の整備だけではなく、従業員の感情的な欲求を満たせる制度や風土づくりが重要と考えられる。

 

【3】組織の帰属要因となる4因子の総合満足度

当社が「組織への帰属要因となる4因子」と定める「目標」「活動」「人材」「条件」への総合満足度の平均値を算出した。

また、 「目標」「活動」「人材」「条件」の総合満足度を目的変数とし、 それぞれの要因を分解した各4領域への満足度を説明変数として重回帰分析を実施し、それぞれの標準化回帰係数を表2に示した。この標準化回帰係数が大きいほど、説明変数の値が変化した際に、目的変数への影響度が大きいということができる。

※目的変数への影響を及ぼさないと判断した領域(P値>0.05以上)についてはハイフンを記載している。

 

表2より、総合満足度が最も高かったのは、「活動」「人材」であり、次点で「目標」、最も満足度が低いのが「条件」という結果となった。

それぞれの因子別にみると、「目標」に対しては、「経営戦略」が特に強い影響を及ぼし、次点で「企業理念」が影響を及ぼすことがわかった。

「活動」に対しては、「貢献実感」が特に強い影響を及ぼし、「成長実感」「競争優位」も一定の影響力を持っていることがわかった。

「人材」に対しては、「開放的風土」が特に強い影響を及ぼし、「人材・有能性」も一定の影響力を持っていることがわかった。

「条件」に対しては、「経済報酬」が特に強い影響を及ぼし、「感情報酬」「施設環境」も一定の影響力を持っていることがわかった。

新入社員の満足度が相対的に低い「条件」に焦点を当てると、「経済報酬」や「施設環境」の影響力が強いことは一般的な感覚とも一致する。

一方で「感情報酬」も一定の影響力をもっており、企業の資源は有限であると考えると、より多くの「感情報酬」を提供できる組織作りも重要となってくるだろう。

 

総じて、新入社員の満足度が相対的に低い条件面の満足度を向上させるためには、経済的な報酬の充実やリモートワークにおける仕事環境の整備だけではなく、従業員の感情的な欲求を満たせる制度や風土づくりが重要と考えられる。

 

表2 組織の帰属要因となる4要因の総合満足度と、重回帰分析結果

結論

働き方の多様化、就職活動のオンライン化という変化の中で、新入社員の従業員エンゲージメントを向上させるカギは、リモートワーク環境の整備と同時に社員間の接点強化、経済的な報酬だけではなく感情的な報酬を提供できる制度・風土づくりである。

 

新型コロナウイルスの流行は、経済活動の制限など商品市場への影響に留まらず、労働市場においてもリモートワークをはじめとした働き方に影響が及んでいる。

同様に採用市場においても、これまでの対面重視の採用方法とは一変し、非対面のオンライン面接、オンラインインターンシップが主流となってきている。

本調査では、2021年度の新入社員を対象に新入社員エンゲージメントサーベイを実施し、働き方の多様化、就職活動のオンライン化の中で新入社員が企業に対してどのようなことを期待し、満足しているのかの分析を行い、入社時における企業と新入社員のエンゲージメント向上におけるポイントを考察した。

 

新入社員エンゲージメントサーベイの結果から、新入社員の会社への期待と満足は概ね一致している一方で、共感できる人材の存在には不安が残り、就職活動がオンライン中心に変化したことによる、社員との接点の希薄化が起きていると推測された。

さらに細かく項目を調査すると、適切な労働条件や待遇に加えて、やりがいが感じられ自己成長できる仕事を求めている一方で、環境面に対しての満足度は高くなく、コロナ禍におけるリモートワークへの対応が企業選びにおいて重要となっている可能性があることがわかった。

 

また、新入社員エンゲージメントサーベイの結果を基に重回帰分析を行ったところ、新入社員の満足度が相対的に低い条件面の満足度を向上させるためには、経済的な報酬の充実やリモートワークにおける仕事環境の整備だけではなく、従業員の感情的な欲求を満たせる制度や風土づくりが重要だという示唆が得られた。

 

まとめると、働き方の多様化、就職活動のオンライン化という変化の中で、新入社員の従業員エンゲージメントを向上させるカギは、リモートワーク環境の整備と同時に社員間の接点強化、経済的な報酬だけではなく感情的な報酬を提供できる制度・風土づくりであるということである。

 

以上の結果から言えることは、新入社員は企業に入ることによって得られる報酬や、昨今のリモートワークへの対応力をしっかりと見定めているということだろう。

一方で、オンライン化が進む就職活動の中で、周囲との接点の希薄化に不安を感じたり、経済的な面だけではなく、感情的な報酬も求めているという人間的な側面も垣間見ることができた。

コロナ禍が収まった後も多くの企業がリモートワークを中心とした働き方を推奨すると想定されるが、要所での対面コミュニケーションも重視した働き方が求められているのではないだろうか。

 

 

発行責任者のコメント

今回のレポートでは、依然として続くコロナ禍の中、2021年度の新入社員が企業(入社した会社)に対して何を期待し、どの程度満足しているのかの分析を行い、企業と新入社員の関係における従業員エンゲージメント向上のポイントを探りました。

コロナ禍を契機として、非対面でのオンライン面接など様々な採用方法の変更が行われていますが、2021年度の新入社員は「責任ややりがい」「自己成長の実感」を求め、一定程度満足している様子が見て取れました。対応に苦慮した企業側からすると一安心といったところでしょう。

一方で、「家賃など補助手当」「休暇や休日の取得状況」「役割と給与の妥当性」「快適な職場環境」といった制度・環境面や、「風通しの良さ」といった風土面では、新入社員は期待とのギャップを感じているようです。コロナ禍で働くことや既存社員との関係希薄化に不安を感じつつも、しっかりと企業の対応を見定めている様子も窺えます。

 

新入社員を受け入れる企業側としては、制度・環境面の整備とともに、既存社員との関係を深める工夫や、成長欲求や貢献欲求、承認欲求を満たす感情報酬の提供が重要となります。

厳しい事業環境下においては特に、金銭・地位報酬といった経済報酬の提供は難しくなり、必然的に従業員エンゲージメントを中核とした経営が求められます。

コロナ禍は、リモートワークといった働き方の多様化を迫るだけではなく、ある意味企業経営のあり方自体に見直しを迫っているとも言えるのではないでしょうか。

 

大島 崇(おおしま たかし)

株式会社リンクアンドモチベーション
モチベーションエンジニアリング研究所 所長

略歴
2000年 京都大学大学院エネルギー科学研究科卒業
2005年 住商情報システム株式会社を経て株式会社リンクアンドモチベーションに入社
2010年 モチベーションマネジメントカンパニー 執行役部長に就任
大手企業向けの組織変革や人材開発で多くのクライアントを担当
同時に商品統括ユニット、モチベーションエンジニアリング研究所を兼任し、新商品を開発
2015年 モチベーションエンジニアリング研究所 所長に就任

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