最新の研究結果

「従業員エンゲージメントの近年の傾向」に関する研究結果を公開

2020.3.23

 株式会社リンクアンドモチベーションの研究機関モチベーションエンジニアリング研究所(以下当研究所)は「従業員エンゲージメントの近年の傾向」に関する調査を行いましたので、結果を報告いたします。

調査背景

 ここ数年労働市場では、働き方改革・コンプライアンスが推進され、従業員の労働環境は大きく変化してきている。

 本調査では、こうした労働環境の中、従業員エンゲージメントにどのような変化が起きているのかを探り、従業員エンゲージメント向上に必要な要件を抽出すべく、エンプロイーエンゲージメントサーベイの結果を経年比較し、考察を行った。

調査概要

【エンプロイーエンゲージメントサーベイの概要】

 社会心理学を背景に人が組織に帰属する要因をエンゲージメントファクターとして16領域に分類し(※1) 従業員が会社に「何をどの程度期待しているのか(=期待度)」、「何にどの程度満足しているのか(=満足度)」の2つの観点で質問を行う。エンゲージメントファクターにはそれぞれ4つ、計64の項目が設定されており、回答者はそれぞれの期待度、満足度を5段階で回答する。

 その回答結果から「エンゲージメントの偏差値」であるエンゲージメントスコア(以下ES)を算出し、エンゲージメント・レーティング(以下ER)として整理している(※2) 。

 

【分析対象】

 2015年から2019年にエンプロイーエンゲージメントサーベイを実施した延べ3,076社(回答人数30名以上の企業のみ)

(※1)エンゲージメントファクターの一覧

(※2)エンゲージメントスコア(ES)とエンゲージメント・レーティング(ER)

調査結果

<1>

会社や職場の一体感、成果の追求、理念の浸透への期待度が低下している。また、労働環境、上司からの支援、業務の効率性への満足度が上昇している。

 

【1】 2015年から2019年にかけての64項目の期待度平均・満足度平均の経年変化

 64項目の期待度平均と満足度平均の経年変化を算出し、図1に示した。

図1 2015年から2019年にかけての64項目に対する期待度平均と満足度平均の経年変化

 この結果から、期待度平均は低下傾向にあり、満足度平均は上昇傾向にあることがわかった。

 次に2015年から2019年にかけて具体的にどのような項目の期待度と満足度が低下及び上昇しているのかを分析し、変化幅が大きい5項目をそれぞれ表1に示した。

 2019年の方が期待度が低かった項目は、「職場の一体感」「期待を上回る提案・対応」「メンバーの目標達成意欲」「全社的な連帯感」「理念の現場浸透度」であった。このことから会社や職場の一体感、成果の追求、理念の浸透への期待度が低下していると考えられる。

 また、2019年の方が満足度が高かった項目は、「休日や就業時間」「多様な働き方」「部下のコンディション把握」「成功・失敗事例の共有」「継続的な改善活動」であった。このことから労働環境、上司からの支援、業務の効率性への満足度が上昇していると考えられる。

表1 2015年から2019年にかけて期待度の低下幅が大きい5項目と満足度の上昇幅が大きい5項目(差分=2019年の結果-2015年の結果)

<2>

従業員エンゲージメント向上には、組織の上下のコミュニケーション強化、理念・戦略・目標の共有と意欲醸成、事業の将来性実感が重要である一方で、業務・労働環境改善、企業の安定性・知名度向上、上司からの支援強化の影響は相対的に低位に留まった。

 

【2】 ESと64項目の相関

 どのような項目がESの向上に寄与するのかを調べるために、ESと64項目の相関係数を算出し、相関が高い項目と低い項目をそれぞれ8項目ずつ表2に示した。

 ESとの相関が高い項目では、組織の上下のコミュニケーションに関わる「相互尊重の精神」「経営陣に対する信頼」「階層間の意思疎通」、理念・戦略目標や意欲に関わる「理念の現場浸透度」「戦略目標への納得感」 「業務目標や計画の共有」、 「メンバーの目標達成意欲」 、事業の将来性に関わる「事業の成長性や将来性」があがった。

 また、ESとの相関が低い項目では、業務・労働環境に関わる「業務環境の充実度」「勤務地のロケーション」「休日や就業時間」、企業の安定性・知名度に関わる「財務状態の健全性」「話題性や知名度」、上司からの支援に関わる「トラブル状況の把握」「部下のコンディション把握」「部下への支援行動」があがった。

 総じて、従業員エンゲージメント向上には、組織の上下のコミュニケーション強化、理念・戦略・目標の共有と意欲醸成、事業の将来性実感が重要である一方で、業務・労働環境改善、企業の安定性・知名度向上、上司からの支援強化の影響は相対的に低位に留まった。

表2 ESとの相関が高い8項目と相関が低い8項目

結論

会社や職場の一体感、成果の追求、理念の浸透への期待度は低下傾向にあり、労働環境、上司からの支援、業務の効率性への満足度は上昇傾向にある。

従業員エンゲージメント向上には、従業員が自社の将来に期待ができるような、理念・戦略・目標の設定、それらを浸透させる上下のコミュニケーションの強化を一貫性を持って行うことが求められる。

 ここ数年労働市場では、働き方改革・コンプライアンスが推進され、従業員の労働環境は大きく変化してきている。本調査では、こうした労働環境の中、従業員エンゲージメントにどのような変化が起きているのかを探り、従業員エンゲージメント向上に必要な要件を抽出すべく、エンプロイーエンゲージメントサーベイの結果を経年比較し、考察を行った。

 まず2015年から2019年にかけての64項目の期待度平均・満足度平均の経年比較を行ったところ、会社に対する従業員の期待度は低下、満足度は上昇していることがわかった。具体的には会社や職場の一体感、成果の追求、理念の浸透への期待度が低下しており、労働環境、上司からの支援、業務の効率性への満足度が上昇していることがわかった。この満足度向上は、企業が働き方改革やコンプライアンスを推進したことが影響しているのではないかと推察される。

 しかしながら、ESと64項目の相関分析を行ったところ、従業員エンゲージメント向上に対する業務・労働環境改善、企業の安定性・知名度向上、上司からの支援強化の影響は相対的に低位に留まった。つまり労働環境や業務の効率性の満足度は上昇傾向にあるものの、この傾向は企業と従業員のエンゲージメント状態には大きな影響を及ぼさないと考えられる。

 では従業員エンゲージメント向上においては何が求められるのだろうか。ESと64項目の相関分析から、従業員エンゲージメント向上には組織の上下のコミュニケーション強化、理念・戦略・目標の共有と意欲醸成、事業の将来性実感が重要であることが見えてきた。注目すべきは、これらの要素は個別に存在するものではなく、相互影響関係にあることだ。つまり理念・戦略・目標の共有は、経営陣から管理職、管理職からメンバーといったように、上下のコミュニケーションを介して行われるものであり、その結果として従業員に理念・戦略・目標への納得感や期待感が醸成されることが事業の将来性の実感に繋がるということである。

 そうであるとすれば、経営者がなすべきは単発の取り組みではなく理念・戦略・目標と一貫性のある方針を指し示し、それをつなぐコミュニケーションを設計することである。

 社会的要請をうけ、今後も働き方改革やコンプライアンスの推進は必要不可欠である。しかし、社会的要請にただ応えるだけでは従業員エンゲージメントは向上しないだろう。従業員が自社の将来に期待ができるような、理念・戦略・目標を設定し、それらを浸透させる上下のコミュニケーションの強化を一貫性を持って行うことが求められているのではないだろうか。

現場責任者のコメント

 本調査より、2015年から2019年にかけて従業員の会社に対する期待度が低下し、満足度が上昇している、つまり「期待度と満足度の乖離が小さくなっている」ことがわかりました。特に満足度について、労働環境・上司からの支援・業務の効率化に対する満足度が大幅に上昇しており、各企業での働き方改革やコンプライアンスの推進が影響しているものと考えられます。

 以上のような状態を表面的に読み取れば、従業員の会社に対する期待度と満足度がすり合ってきており、喜ばしい状態といえるでしょう。

 しかし、裏を返せば現状に対して一定の満足感が得られてしまっているため、「現状を変えたくない」「現状のままで良い」という現状維持バイアスが働きやすくなっている状態だと考えられます。そして、現状維持バイアスに捉われてしまうと、組織状態は悪化してしまうリスクがあります。

 私自身、様々な企業や自組織に関わっていく中で、従業員エンゲージメントが向上したことにより慢心が生まれ、停滞してしまう組織を多く見てきました。

 従業員の満足感が得られてきたと思ったときこそ、「今」ではなく「未来」に対する健全な期待感や危機感を醸成することで、組織を活性化していくことが重要となります。組織にゆらぎを与え続けることで、段階的に従業員エンゲージメントを向上させていくという意識が必要ではないでしょうか。

 

 

川内 正直(かわうち まさなお)

株式会社リンクアンドモチベーション 取締役

略歴
1979年生まれ 早稲田大学教育学部卒業
2003年 株式会社リンクアンドモチべーション入社
2010年 関西の採用領域事業の執行役員に就任
2014年 大手企業向けコンサルティング事業の執行役員に就任
2018年 同社取締役就任

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