最新の研究結果

「従業員エンゲージメントとマネジメントレベルの関係」に関する研究結果を公開

2020.2.28

当社の研究機関モチベーションエンジニアリング研究所(以下当研究所)は「従業員エンゲージメントとマネジメントレベルの関係」に関する調査を行いましたので、結果を報告いたします。

調査背景

 当研究所のこれまでの調査では、従業員エンゲージメントの向上にはミドルマネジャーの育成が重要であることを示唆してきた。今回は、改めてその影響度を定量的に把握すべく、従業員エンゲージメントを診断する「エンプロイーエンゲージメントサーベイ」とマネジャーのマネジメント状態を診断する「マネジメントサーベイ」の関係を分析し、従業員エンゲージメントを高めるための効果的なマネジメント手法を探った。

調査概要

【エンプロイーエンゲージメントサーベイの概要】

 社会心理学を背景に人が組織に帰属する要因をエンゲージメントファクターとして16領域に分類し、従業員が会社に「何をどの程度期待しているのか(=期待度)」、「何にどの程度満足しているのか(=満足度)」の2つの観点で質問を行う。エンゲージメントファクターにはそれぞれ4つ、計64の項目が設定されており、回答者はそれぞれの期待度、満足度を5段階で回答する。その回答結果から「エンゲージメントの偏差値」であるエンゲージメントスコア(以下ES)を算出し、エンゲージメント・レーティング(以下ER)として整理している(※1) 。

【マネジメントサーベイの概要】

 マネジャーのマネジメント状態を診断するためのサーベイ。上司回答版と部下回答版の2種類が存在する。サーベイでは全40の質問項目に対し、マネジャーの上司、マネジャーの部下が「何をどの程度期待しているのか(=期待度)」、「何にどの程度満足しているのか(=満足度)」について「非常に期待(満足)している(5)」から「全く期待(満足)していない(1)」までの5段階で回答する。

【分析対象】

 リンクアンドモチベーショングループ(以下当グループ)にて、2016年8月~2019年11月に実施したエンプロイーエンゲージメントサーベイとマネジメントサーベイ。各7回、のべ929名分。

【分析概要】

① マネジメントサーベイの結果をスコア化し、マネジャーの担当部署のESとの相関関係を調べた。

② マネジメントサーベイの各項目の期待度・満足度をスコア化し、マネジャーの担当部署のESとの相関関係を調べた。

(※1)エンゲージメントスコア(ES)とエンゲージメント・レーティング(ER)

調査結果

①従業員エンゲージメントとマネジメントレベルは、正の相関関係がある。

従業員エンゲージメントとマネジメントレベルの関係

 マネジメントサーベイ部下回答版の結果をスコア化し、マネジャーの担当部署のESとの相関関係を調べた結果を表1、図1に示す。下記の通り、マネジメントサーベイ部下回答版のスコアとESは正の相関関係がある。なお、マネジメントサーベイ上司回答版のスコアとESの相関関係も調査したが、ほとんど相関がないという結果であった。この結果から、従業員エンゲージメントを高めるためには、上司よりもメンバーと向き合い関係構築をしていく必要があるとわかる。

表1:データ数と相関係数

<参考:相関係数の見方>

図1 マネジメントサーベイ部下回答版のスコアとESの相関グラフ

②個人の裁量権や影響力が大きい事業を営む部署においては、部下の成長を導くための基準提示や評価、フィードバックが従業員エンゲージメントの向上に寄与する。

当グループの組織開発Divisionにおける、マネジメントサーベイの各項目と従業員エンゲージメントの関係

 当グループで法人向けビジネスを営む組織開発Divisionにおいて、マネジメントサーベイの各項目の期待度・満足度をスコア化し、マネジャーの担当部署のESとの相関関係を調べた。相関の高い10項目と低い10項目を図2、3に示す。当グループの組織開発Divisionは、コンサル・クラウド事業とイベント・メディア事業の2つの事業がある。コンサル・クラウド事業は、企業に対して組織人事にかかわる変革ソリューションをワンストップで提供しており、イベント・メディア事業は、企業に対して事業活動上のコミュニケーションシーンにおけるイベントやメディアを制作している。これらの事業は、1顧客当たりの単価が高く、基本的には狩猟型のビジネスであり、個人の裁量権や影響力が大きい事業と言える。こうした事業特性もあって当グループの組織開発Divisionでは、図2、3に示す通り、部下の業務支援や外部情報の伝達よりも、個人の成長を導くための基準提示や評価、フィードバックが従業員エンゲージメントの向上に寄与すると分析することができる。

図2 [組織開発Division] ESとマネジメントサーベイ各項目の相関:上位10項目

図3 [組織開発Division] ESとマネジメントサーベイの各項目の相関:下位10項目

③組織としての連携度合いの影響が大きい事業を営む部署においては、業務の意義の提示や的確な状況確認と役割分担が従業員エンゲージメントの向上に寄与する。

当グループの個人開発Divisionにおける、マネジメントサーベイの各項目と従業員エンゲージメントの関係

 当グループで個人向けビジネスを営む個人開発Divisionにおいて、マネジメントサーベイの各項目の期待度・満足度をスコア化し、マネジャーの担当部署のESとの相関関係を調べた。相関の高い10項目と低い10項目を図4、5に示す。当グループの個人開発Divisionは、キャリアスクール事業と学習塾事業の2つの事業がある。キャリアスクール事業は、個人に対して英会話や資格などの個人のキャリア向上を目的としたワンストップのサービスを提供しており、学習塾事業は、個人に対して受験指導はもちろん、社会で役立つスキル開発の場を提供している。これらの事業は、1顧客当たりの単価が低く、基本的には農耕型のビジネスであり、組織としての連携度合いの影響が大きい事業と言える。こうした事業特性もあって当グループの個人開発Divisionでは、図4、5に示す通り、学習機会の提供や即時の意思決定よりも、業務の意義の提示や的確な状況確認と役割分担が従業員エンゲージメントの向上に寄与すると分析することができる。

図4 [個人開発Division] ESとマネジメントサーベイ各項目の相関:上位10項目

図5 [個人開発Division] ESとマネジメントサーベイ各項目の相関:下位10項目

④従業員エンゲージメントを高めるためのポイントは、事業特性によって異なる。

当グループの組織開発Divisionと個人開発Divisionの差

 ②、③の調査を比較した結果を図6に示す。この結果から、ESとマネジメントサーベイの相関上位下位10項目は、組織開発Divisionと個人開発Divisionで異なることがわかる。中でも、全40項目のうち3項目(図6でハッチングしている項目)が、上位10位と下位10位で逆転している。例えば、「上位役職者への状況報告」は個人開発Divisionでは4位だが、組織開発Divisionでは37位である。これは、組織で動くことに加え店舗型ビジネスを展開しており、個々のメンバーが「見えにくい」個人開発Divisionと、個人で動くことに加え同じ拠点で働いており、個々のメンバーが「見えやすい」組織開発Divisionの差ではないだろうか。このように、従業員エンゲージメントを高めるためのポイントは、事業特性によって異なることがわかる。

図6 [組織開発Division、個人開発Division統合] ESとマネジメントサーベイ各項目の相関:上位10項目と下位10項目

結論

従業員エンゲージメントとマネジメントレベルは、正の相関関係がある。

一方で、従業員エンゲージメントを高めるための効果的なマネジメント手法は一様ではない。

マネジャーは、個と事業の両面を意識したマネジメントが重要である。

 当研究所のこれまでの調査では、従業員エンゲージメントの向上にはミドルマネジャーの育成が重要であることを示唆してきた。今回は、改めてその影響度を定量的に把握すべく、従業員エンゲージメントを診断する「エンプロイーエンゲージメントサーベイ」とマネジャーのマネジメント状態を診断する「マネジメントサーベイ」の関係を分析し、従業員エンゲージメントを高めるための効果的なマネジメント手法を探った。

 あくまで当グループのデータではあるものの、今回の調査結果で明らかになったことは、マネジメントサーベイ部下回答版のスコアとマネジャーが担当している部署のESが、正の相関関係にあるということだ。従業員エンゲージメントを高めるためには、まずはメンバーと向き合い関係構築をしていく必要があるということだろう。

 また、従業員エンゲージメントに影響が高いマネジメントの要素は事業特性によって異なるということも明らかになった。今回の調査結果に基づき分類すると、「狩猟型×個人で動く」モデルと言える当グループの組織開発Divisionは、基準提示や評価、即時の意思決定とフィードバックなどの、個人の成長を促すマネジメントが重要になってくる。一方で、「農耕型×組織で動く」モデルと言える当グループの個人開発Divisionは、業務の意義提示や的確な状況確認と役割分担などの、全体最適に向けてリソースを調整するマネジメントが重要になってくる。

 ただ、ここで注意しなくてはいけないことは、事業特性に応じたリスクについてもマネジャーは意識しておく必要があるということだ。「狩猟型×個人で動く」モデルの場合、自分の成果さえ出せばよいという視野狭窄に陥る可能性がある。組織があるからこそ価値発揮できているという視点が抜け落ちてしまうため、中長期の視点や外部の視点を養っていくマネジメントが必要である。同様に、「農耕型×組織で動く」モデルの場合、個が埋没し、「何のために」「誰のために」仕事をしているのか、という仕事の意義を実感する機会が少なくなるため、組織全体との接続を意識させるマネジメントが必要である。

 従業員エンゲージメントを高めるためにはマネジメントの強化が重要である。一方で、効果的なマネジメント手法は一様でないことも見えてきた。マネジャーは誰しも得意領域と不得意領域がある。企業は、従業員の個性と自社の事業特性を踏まえ、マネジャーの育成方法を考える必要があるだろう。

現場責任者のコメント

 今回の調査結果では、従業員エンゲージメントとマネジメントレベルには正の相関関係があることが定量的に示されました。注目したいのは、従業員エンゲージメントを高めるためのマネジメントに絶対解はないという点です。マネジャーは、組織成果の極大化と個々人のモチベーションの極大化を同時実現する「結節点」です。成果の出し方は職場ごとに異なり、同じ職場であっても構成員が変わることで変化していきます。その前提に立てば、「絶対解はない」という事は当たり前に聞こえるかもしれませんが、一方で「過去のマネジメントが通用しない」といったご相談も多く伺います。これは変化を受け止めること、つまり過去の成功体験を捨てることの難しさを表しているのではないでしょうか。マネジメント力強化に向けては、部下とのコミュニケーションなど特定のスキル開発を行うことが多くあります。これらに加え、組織は関係性によって常に変化するという前提に対応するために、過去の成功体験に固執することなく、「上下」「内外」の期待を把握しながら適切に課題設定し、自らのマネジメントスタイルを変化させ続けることも重要だと言えます。

プロフィール

川内 正直(かわうち まさなお)

株式会社リンクアンドモチベーション 取締役

略歴
1979年生まれ。早稲田大学教育学部卒業
2003年、株式会社リンクアンドモチべーション入社
2010年、同社の関西の採用領域事業の執行役員に就任
2014年、大手企業向けコンサルティング事業の執行役員就任
2018年、株式会社リンクアンドモチべーション取締役就任

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